EU向けの越境ECでIOSSを使う3つのメリット

アメリカのデミ二ミス廃止や相互関税の影響でEU(欧州連合)向けに販売をシフトする越境EC事業者が増えています。2021年に導入された「IOSS(Import One Stop Shop)」制度を利用することで販売事業者だけでなくエンドユーザーに大きなメリットがあります。

IOSSは、EU内の消費者に商品を販売する際のVAT(付加価値税)申告を簡素化する制度で、1回の登録でEU全加盟国の販売に対応できる仕組みです。

本記事では、IOSSを活用することで得られる3つの主要メリットと、導入時に押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。

IOSSとは?越境ECにおける新しいVAT管理制度

EUがIOSSを導入した理由

EUは2021年7月にVAT制度を改正し、越境ECの課税を強化しました。以前は「22ユーロ以下の商品は免税」でしたが、これが廃止となり、すべての輸入商品が課税対象に。

これにより、EU域外の事業者もEU内販売におけるVAT(付加価値税)の申告・納税義務を負うようになりました。しかし、各国ごとにVAT登録を行うのは非常に煩雑のため、そこで導入されたのが「IOSS(Import One Stop Shop)」です。

IOSSの基本構造

IOSSを利用すると、越境EC事業者はEU加盟国のいずれか1カ国で登録するだけで、EU全域のVAT申告を一元管理できます。VATを購入時に徴収し、四半期等でEU域内の会計事務所を通して納税するスキームになります。

たとえば日本のEC事業者がフランスの顧客に商品を販売する場合:

  • 販売時にVATを徴収
  • 顧客は関税・VAT支払い不要で受け取り可能
  • 出荷時にIOSS番号を付与
  • EC事業者はEU域内の会計事務所を通してEU税務当局へVATを納付

このように、「消費者に負担をかけず」「税務を一括処理」できる点が大きな特徴です。

対象注文は個人宛に販売された商品合計150ユーロ以下の注文になり、150ユーロを超える場合はIOSSは利用ができないので注意が必要です。

エンドユーザー(購入者)の購入体験が大幅に向上

VATの受け取り時支払いが不要になる

IOSSを利用していない場合、EUの消費者は商品受け取り時に配送業者へVATを支払う必要があります。この「受け取り時課税(Delivered Duty Unpaid)」は、トラブルの原因になることがあります。

購入者からすると、

  • 配達時に予期せぬ追加料金を請求される
  • 支払い拒否による返品が発生
  • 到着までのリードタイムが延びる
  • 配達業者に手数料を請求される

といった問題が起こりやすく、越境EC全体の顧客満足度(購入体験)を下げてしまいます。

IOSSを利用すれば、VATは購入時に徴収するので顧客は追加支払いなくスムーズに商品を受け取れ、購入総額が後払いよりも安くなります。結果として、カート離脱率の低下・リピート率の向上・購入体験の向上が期待できます。

VAT管理・納税を一元化できる

複数国への登録が不要に

もともとはEU各国へ販売してVATを納税する場合は、国ごとにVAT登録・申告が必要でした。
たとえば、フランス・ドイツ・イタリアに販売している場合、それぞれの国で税務登録・レポート提出を行わなければならなかったのです。

IOSSを導入すれば、1カ国のIOSS登録だけでEU全体のVAT申告を完結できます。
四半期ごとにEU域内の会計事務所を通じてVATの申告を行います。1度の申告でEU当局を通じて各国に自動分配されます。

通関・配送のスピードが向上

EUの税関での処理がスムーズに

IOSS番号が付与された荷物は、EUの税関で「VAT済み」として優先的に処理されます。
その結果:

  • 通関の遅延が減る
  • 関税計算の手戻りが発生しにくい
  • 税関検査のリスクが軽減

たとえば、IOSS番号を未記載の状態で発送すると、税関でのVAT徴収プロセスが発生し、1〜2週間の遅延につながるケースもあります。IOSSを活用すれば、到着後即配達可能なフローを実現でき、配送スピードが向上します。

IOSSを導入する際の注意点

IOSSが適用できる取引条件

IOSSは「B2C(消費者向け)」取引で、かつ1注文あたりの課税価格が150ユーロ以下の場合に適用されます。150ユーロを超える高額商品は、従来どおり通関時に課税されるため注意が必要です。

また、AmazonやeBayなどのマーケットプレイス経由販売では、プラットフォーム側がIOSS番号を保有しているケースが多く、自社で登録する必要はない場合もあります。

日本からIOSSを利用する方法

日本企業がIOSSを利用するには、EU内に税務代理人(Intermediary)を設置する必要があります。
代理人を通じて登録・月次申告・納税を行う仕組みで、初期登録費用や代行手数料が発生しますが、その分通関トラブルの削減効果が大きいのが特徴です。

まとめ:IOSSは“ヨーロッパ市場攻略”の鍵

IOSSは単なる税務制度ではなく、EU越境ECの競争力を高めるための基盤です。

メリット内容
消費者体験の向上関税・VAT支払い不要でスムーズな受取
税務効率の向上EU全体のVAT申告を一元管理
配送スピードの改善税関処理がスムーズで納期短縮

EUは世界第3位のEC市場であり、日本企業にとっても今後の成長余地は大きい領域です。
越境ECをスケールさせたい事業者は、物流・通関・税務の3要素をIOSSで統合的に設計することが重要です。

NEOlogiでは、IOSSを活用したEU向け出荷やVAT対応もサポートしています。
「EU販売を始めたいが税金・通関が不安」という方は、ぜひ一度ご相談ください。

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株式会社ネオ・ウィング
 
黛 将広

株式会社ネオ・ウィング 取締役 / 物流代行サービス「NEOlogi」 責任者

物流業務の効率化・業務改善及び、ECに関する一連業務のDX支援など、EC運営経験およびNEOlogiで培ったシステム開発力でお客様の課題を解決します。

国内配送はもちろん、海外配送や越境EC運営でお困りのことがありましたらお気軽にお問合せください。